■ 一般婦人科検査
■ 多嚢胞性卵巣症候群
多嚢胞性卵巣症候群について
多嚢胞性卵巣症候群(以下PCOSと略します。)は月経異常(排卵障害)、卵巣機能の異常を主体として色々な症状を呈する疾患です。排卵できない未成熟な卵胞(卵巣の中にあり卵子を育てる部屋と考えてください。)が卵巣内に嚢胞状(袋状)にたくさんたまってしまうために多嚢胞性卵巣と言われます。生殖年齢の女性で最もしばしば見られる卵巣機能障害の原因と考えられています。そのため、極めて重要な不妊の原因となります。
多嚢胞性卵巣の症状
臨床症状は月経異常(無月経、稀発月経、無排卵周期症など)があり、時に男性化徴候(多毛、にきび、低音声、陰核肥大)や肥満(約70%の方)を伴います。排卵障害があるため不妊になります。
検査
脳下垂体からはLH(黄体化ホルモン)とFSH(卵胞刺激ホルモン)が出て卵巣に働き、卵胞の発育を促しますが、PCOSでは、このうちLHの分泌が増えてFSHとのバランスの乱れがおこり、卵胞がうまく発育できないようです。排卵がおこらないと、排卵をさせようと更にLHの分泌が増えるため、乱れがますますひどくなるという悪循環に陥ります。
(1)従って、血液検査ではLH(黄体化ホルモン)の基礎分泌は高値を示し、FSH(卵胞刺激ホルモン)は正常範囲となります。男性ホルモンである血中テストステロンやアンドロゲンは高い値になります。これらの男性ホルモンが高いために男性化徴候(多毛、にきび、低音声、陰核肥大)が現れますが、欧米人に比べて日本人では男性化徴候をきたす方は多くありません(約20%)。
(2)超音波断層検査で多数の卵胞(5mmくらい)の嚢胞状に認められます。片方で10個以上あれば多嚢胞と診断されます。これは排卵できずに卵巣にたまってしまった状態を表しています(下図矢印)。従って、卵巣も大きくなります。卵巣の体積が4.5ml(正常上限は6.2ml)から10mlと大きくなります。男性ホルモンが高いために卵巣の表面は厚い状態になり、排卵しにくくなります。

(3)PCOSの方には下記に示しますようにインスリン抵抗性を示すことが多いことが分かっています。したがって糖負荷試験(75グラムの砂糖水を飲んで、30分後、1時間後、2時間後に採血を行い血糖およびインスリン濃度を測定します。)を行い、インスリン抵抗性の有無を調べます。インスリン抵抗性がある方は将来II型糖尿病になる可能性が、インスリン抵抗性がない方に比べて3−7倍高いことが分かっています。糖負荷試験の結果は治療法の選択にも重要になってきます。肥満のある方では体重減少を含めた全身的な治療が大切になります。
多嚢胞性卵巣症候群の原因
近年、PCOSはインシュリンの働きと関連していると言われています。インシュリンとはすい臓から分泌されるホルモンで、ブドウ糖を血液中から細胞内に取り込ませてエネルギーとして働くようにするホルモンです。PCOSではインシュリンの働きが悪くなり、血液中のブドウ糖を細胞内に取り込ませることができにくくなり、より多くのインシュリンが必要になる状態にあります。これをインシュリン抵抗性と言います。インシュリンの量が増加すると卵巣での男性ホルモンの産生が増加すると言われています。しかし、まだわからないメカニズムもあり、現在研究が進められている状況です。
多嚢胞性卵巣症候群の治療法
PCOSの7割の女性は排卵に問題があるため、不妊症になる可能性が高くなります。排卵を促すために排卵誘発を行います。内服の排卵誘発剤クロミフェン(セロフェン・クロミッドなど)を月経が始まった5日目より5日間服用します。8割の女性は排卵をおこします。クロミフェンにより妊娠が成立した場合の多胎率は13%ほどです。内服の排卵誘発剤で排卵がおこらない場合にはhMG療法という排卵をおこすための注射療法を行います。PCOSの場合は、排卵誘発を行うと卵巣が過敏に反応してしまい、卵巣過剰刺激症候群とよばれる副作用をおこしやすい傾向があるので慎重に進める事が必要です。それでも60−70%の方で卵巣が過剰に反応してしまいます。たくさんの卵胞が育ってしまった場合には多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群の予防のために避妊を勧める場合があります。肥満のある方では体重を減らすと排卵しやすくなります。
手術療法は腹腔鏡下手術で行い、電気メスで卵巣の表面に小さな穴をたくさん開けます。これにより硬くなった卵巣表面が軟らかくなり、排卵しやすくなります。 手術後約6ヶ月間は排卵が起こりやすくなり妊娠が期待できます。それ以降はまた卵巣表面が硬くなり排卵が起こりにくくなります。
さしあたり妊娠の希望がない場合は、月経を周期的におこすような治療を行います。これには、カウフマン療法とよばれるホルモン療法や、月経周期の後半10日間にプロゲストン10mg/日を内服するホルムステッド法、更に低用量ピルなどのホルモン剤を使い方法があります。クロミフェンにより排卵をおこすことも行われます。多毛などの男性化徴候を認める方ではアンドロゲン作用の低い低容量ピル(オーソM、マーベロンなど)を選択します。その他、抗アンドロゲン作用のあるスピノロラクトン(アルダクトンA)を50-100mg/日ほど内服します。基本的には利尿剤ですので頻尿になります。
最近の研究でグリコラン(メトフォルミン)というインシュリンの効きをよくする薬が排卵をおこすのに有効であることが分かりました。糖尿病の患者さんに使われている薬ですが、PCOSで排卵に問題がある女性に効果があることがわかり、使用されるようになりました。グリコラン(メトフォルミン)は、インスリン抵抗性が高血糖の原因と考えられるインシュリン非依存型糖尿病の治療薬です。PCOSの病因は、卵巣内アンドロゲンやテストステロンなどの男性ホルモン濃度の上昇であり、機能性卵巣アンドロゲン過剰分泌と理解されています。インシュリンは直接卵巣に作用して、卵巣内のアンドロゲン産生を促進する働きがあります。男性ホルモンの上昇は卵巣の皮膜を厚くするため排卵ができなくなると考えられています。PCOSの患者がグリコラン(メトフォルミン)を内服すると、卵巣を含めた色々な臓器でのインシュリンの感受性が高まり、血中のインシュリンが減少します。その結果、卵巣内のアンドロゲンが減少すると報告されています。クロミフェンのみでは排卵できなかった方でも、グリコランを併せて内服すると排卵できるようになる確率が高まることが分かっています。ただし、グリコランは糖尿病以外では健康保険の適応がないため自費になります 。
|